マットスイッチによるRJ(リバウンドジャンプ)指数の測定
トランポリン競技では,身体をトランポリンのバネ特性にあわせるような力発揮を行い,「あたかも」同程度の硬さのバネとして振る舞うことでより高く跳躍することができます.
一方,陸上競技の短距離走や跳躍競技などでは床が硬いため,トランポリン競技などと比較すると身体を「あたかも」より硬いバネのように振る舞わせ,床面との間に高い反発力を生み出すことで,より高い競技能力を達成していると考えられています.他にもバスケットボールやサッカーなどにおける方向転換などでは,「短時間で力やパワーを発揮する能力」が必要とされ,ここでは「高反発特性」と形容することにします.
これは物理的には共振や機械的インピーダンスマッチングと同じ原理で説明することができます.たとえば,スーパーボールが床面の硬さに見合った高い弾性特性をもっているために,高反発することと同じ原理です.すなわち,競技力を向上させるために,トランポリンや床などの「環境の硬さ(機械インピーダンス)」に応じて,「身体の硬さ」を同程度に「共振(マッチング)・整合」させる,最適な力学原理に自然と従うように,ヒトはトレーニングによって高い跳躍力を獲得していると言えます.
したがって,この「高反発特性」は機械的なインピーダンスマッチングという適応から,言い換えるなら「硬い床面という環境に適応して,身体が大きな反力を獲得する」という競技特性から必要とされている能力と言えます.
なお,冒頭「あたかも」と強調したのは,身体全体がそのような固有の弾性特性を有しているわけではなく,全身の制御を行っている結果,「あたかも」見かけ上そのような弾性特性を実現しているだけで,その特性は筋肉固有の物理的特性ではありません.ただし,特に大きな反力を必要とするような制御を実現するためには,トレーニング等によって獲得された高い筋骨格系の能力が不可欠です.
連続リバウンドジャンプとRJ指数
トランポリンのようなバネよりもさらに硬い床面に対して,短時間で高反発するように力やパワーを発揮する「高反発特性」は,一般には連続リバウンドジャンプの計測によって調べられるRJ指数(リバウンドジャンプ・インデックス)で数値化できます.
連続リバウンドジャンプとは「できるだけ短い接地時間で高く跳び上がる」動作を連続して行う動作です.国立スポーツ科学センター(JISS)で行われている標準的な計測では,5回連続してジャンプを繰り返します.
陸上の跳躍競技などの高反発特性を有する選手の連続リバウンドジャンプでは,一般に「跳躍高が高く」,「接地時間が短い」傾向が顕著です.そこで,この「跳躍高」と「接地時間」の比であるRJ指数を計算することで,被験者の下肢や体幹の「短時間で発揮するパワー発揮能力」(高反発特性)を調べることができ,国内では普及した測定方法と指標となっています.幸い,国立スポーツ科学センター(JISS)でも,エリートアスリートの体力測定の測定項目として公開されていますので,一流選手のデータと比較することも可能です(参考資料:フィットネスチェックハンドブック―体力測定に基づいたアスリートへの科学的支援―,ハイパフォーマンスセンター:フィットネスチェックマニュアル).
そこで,次にマットスイッチを使用した,パワー発揮能力の評価方法について具体的にご説明します.
連続リバウンドジャンプ
ここでは,国立スポーツ科学センターの計測方法をご紹介します(ハイパフォーマンスセンター:フィットネスチェックマニュアル).
ウォーミングアップ
リバウンドジャンプは下肢に非常に大きな負担がかかるため,十分なウォー ミングアップを行うことが必要です.ウォーミングアップでは,軽いジョギングや自転車エルゴメータを用いたペダリングを行うことなどが推奨され,使用する筋群のストレッチ運動も行うと良いでしょう.
連続リバウンドジャンプ
具体的な運動方法と注意点をご紹介します.
・マットスイッチの上で,5回連続ジャンプを,軽い休憩を挟んで2回計測を行います.
・手を腰に当てた姿勢のままジャンプします(腕振りの影響を除外するため).
・安定したジャンプを行うために,2回目までは努力度が5割~8 割程度で行い,3回目以降に最大努力で実施するとよいでしょう.
・接地時間をできるだけ短く,かつ跳躍高を高くすることを意識します.接地の曲げ膝角度を大きくして,跳躍高を高くする飛び方を避けましょう.
・できる限り離地と同じ姿勢で接地するように心がけます.
連続リバウンドジャンプと RJ 指数
トランポリンのようなバネよりもさらに硬い床面に対して,短時間で高反発するように力やパワーを発揮する「高反発特性」は,一般には連続リバウンドジャンプの計測によって調べられるRJ指数(リバウンドジャンプ・インデックス)で数値化できます.
陸上の跳躍競技などの高反発特性を有する選手の連続リバウンドジャンプでは,一般に「跳躍高が高く」,「接地時間が短い」傾向が顕著です.そこで,この「跳躍高」と「接地時間」の比であるRJ指数を計算することで,被験者の下肢や体幹の「短時間で発揮するパワー発揮能力」(高反発特性)を調べることができ,国内では普及した測定方法と指標となっています.
そこで,次にこの評価方法について具体的に説明します.
RJ指数の計測方法
RJ指数は跳躍高hと接地時間Tcの比です.
跳躍高hは,初速度0の質点の自由落下の運動方程式から導出して,
となります.ここで,Ta は空中期の時間で,ただし,計測する道具としてマットスイッチを用い滞空時間 Ta を計測し,そこから推定した跳躍高 h を計算します.
結果,RJ 指数は
となります.接地時間 Tc と滞空時間 Ta は直接マットスイッチから計測できるので,RJ 指数を,マットスイッチによる計測だけで計算することができます.図子ら[1]が述べるように,これは「だれでも,いつでも,どこでも,簡単に」測定ができる優れた方法です.
最初にも述べましたが,エリートアスリートの体力測定の結果が公開されていますので,ここで少し取り上げます.
気になる最も高いRJ指数を示す競技は,陸上競技の跳躍系で,男子では3.0を超えます.この数値は恐らく一般のアスリートではなかなか出すことのできない数値と思われます.また,多くのエリートアスリートは2.0を超えるようです.このほか一部を抜粋すると,
トランポリン競技:男子約2.4
バレーボール競技:男子約2.0,女子約2.0
バスケットボール競技:男子約2.0,女子約1.6
自転車競技(トラック):男子約1.7,女子約1.6
となっております(参考資料:フィットネスチェックハンドブック―体力測定に基づいたアスリートへの科学的支援―).
マットスイッチによる計測
マットスイッチを用いれば,このようなエリートアスリートのデータと比較しながら,被験者の競技特性(身体全体の弾性係数に比例した特性)を調べることができます.
マットスイッチは,フォースプレートと異なり鉛直方向(計測面に対して垂直な方向)のみの力を計測し,かつ離地・接地のオンオフを計測する道具です.
RJ指数の物理的意味
図子ら[1]はこのような仮定は述べていませんが,ここでは,簡便に身体を一つの「質量+弾性」システムと見なしたときの高反発特性を,「連続リバウンドジャンプ」を行うことによって推定しています.
もう少し踏み込んで述べると,「床の硬さに応じて身体の硬さも整合させるように適応しているが故に」,その特性が発現しやすい「連続リバウンドジャンプ」という拘束下で運動することで,身体全体の高反発特性(見かけ上の弾性係数)が推定できるという仮定に基づいています.
しかし,この指数の物理的意味はまだ明確ではありません.そこで,この仮定に基づいて,次に「RJ指数の物理的意味」について考察します.
参考文献
[1] 図子,高松,古藤:各種スポーツ選手における下肢の筋力およびパワー発揮に関する特性, 体育学研究, 38-4, pp.265-278, 1993.